曲目解説



リスト  「タランテラ」−巡礼の年第二年補隋 ヴェネツィアとナポリ より

 

1835年、マリー・ダグー伯爵夫人と手に手をとってリストはパリを離れた。二人の遍歴の年、スイス、イタリアを巡る巡礼の年の始まりである。二人はスイスで一年半ほど過ごし、パリとの往復をしつつ、今度はイタリアへ。この時期は、リストにとっては作曲上重要な時期であり、一連のピアノ曲「巡礼の年第一年スイス」、「巡礼の年第二年 イタリア」が次々に発表されている。静かで落ち着いた生活。しかし、リストは次第にこの実り豊かな生活に退屈し始める。そして、単身パリへと戻り、ライバルであるタールベルクとの対決(俗に「二大ヴィルトォーゾ対決」などといわれる)演奏会(試合?)を催し、喝采と賛辞の嵐の中を闊歩し、憂さを晴らすようにドンチャン騒ぎを起こし、社交界に相も変らぬ健在ぶりを誇示するかのようにスキャンダルを撒き散らした。

 南イタリア・ナポリ地方にあるテンポの速い民族舞曲であるタランテラは、もともとは、原産の毒蜘蛛タランテラに刺されたら疲れ果てるまで踊り続けなければ治らない、とするロマンティックな言い伝えにその名を由来する。曲は、背後から忍び寄ってくる毒蜘蛛の不気味な8本の足がうごめく様子を低音が表すところから始まる。いつの間に気づかぬうちに刺され、じわじわと身体中を正体不明の疼きが広がってくる。そして、踊りの始まりである。力強く踏み鳴らす足。捲くれあがるドレスの裾。飛び散って輝く汗。むせ返る香水のにおい。手を替え品を替え、あらゆる鍵盤上のテクニックを駆使してひたすら踊りは続く。やがて、中間部の優雅なカンツォーネが踊り疲れた脚をやさしく撫で上げる。つかの間の休息。しかし、踊りは再び狂乱の渦の中へ舞い戻る。そして、否応なくますますの昂揚と興奮で締め上げるようにして最高潮を迎えるのである。

岸本礼子


参考文献:
・大作曲家 リスト 音楽の友社
・クラシックのあゆみ 前期ロマン派の音楽 シューベルトからリストまで
・リスト ヴィルトォーゾの冒険  春秋社
・リスト 作曲家・人と作品  音楽の友社
・パリのヴィルトォーゾたち ショパンとリスト  ショパン

◆ 参考文献総目録 

back ( ベートーベン「告別」 ) | index

>> home



copyright